不動産の価格はどのように決まるのか?

不動産鑑定評価において、不動産の価格を求める手法としては、原価法、取引事例比較法、収益還元法の3手法が示されています。

手法の細かい論点はさておき、それぞれの手法の特徴をざっくりと解説します。

原価法

原価法とは、コストアプローチと言われている手法で、簡単に言えば土地の価格と建物の価格を合算した価格となります。土地のみの場合は殆ど適用されることなく、土地及び建物の場合(建物及びその敷地という)において、採用される手法です。例えば、土地の価格を算定し、建物の新築価格を求めて、経年による劣化などの減価修正を行い、足し算して求める手法です。原価法により求められた価格を積算価格といいます。原価法は、作ってナンボの世界なので、供給者側から見た価格目線と言えます。

取引事例比較法

土地のみの場合、土地及び建物の場合に用いられる手法で、マーケットアプローチと言われる手法です。よく不動産会社が物件査定を行いますが、取引事例から見て対象不動産の地域性や個別性を考慮するといくらぐらいになるかという視点です。取引事例比較法により求められた価格を比準価格と言います。不動産売買マーケットを意識する手法なので、皆さんにもなじみが深い手法と言えます。

収益還元法

不動産が賃料などの収益を生む不動産である場合、賃料から固定資産税や管理・修繕コストを控除すると手元に収益が残ります。この収益を利回りで割り戻せばいくらになるかという視点での価格であり、インカムアプローチと言われます。収益還元法により求められた価格を収益価格と言います。
なお、収益を生んでいない不動産でも、貸せばいくらぐらいの賃料が入ってくるか?を想定すれば収益還元法の適用は可能であり、自宅などの自己居住用不動産でも収益還元法の適用は可能です。

このように不動産の価格には、コスト性(費用性)、マーケット性(市場性)、インカム性(収益性)の3つの側面があると言われ、これを価格の三面性と言われています。

通常、不動産鑑定評価を行う場合は、これらの三手法をできる限り採用して、各種の調整を行って鑑定評価額を決めるということを行います。

不動産価格がマイナスになり得るか?

実は、不動産の価格がマイナスになることは、不動産鑑定評価では想定されていません。そもそも土地は希少な財産であり、プラスの価値がつくという常識があります。地価公示や路線価においてマイナスの土地というのは日本には存在しません。
それでは、以下の事例のような不動産があったとしますので考えてみましょう。

事例1 価格100万円の土地の上に、腐食が進み取り壊すしかない建物が存在して解体費用が200万円かかる不動産

この場合、更地化すれば土地として100万円で売却できますが、建物の解体費が土地価格を大幅に上回り、次のような計算になります。

土地価格100万円-建物解体費用200万円=▲100万円

ましてや土地価格が時価としてほとんど観念できない土地である場合は、

土地価格0円-建物解体費用200万円=▲200万円

このように不動産を時価ベースでみると理論上はマイナスになる可能性は十分にあり得るのです。

次に、土地のみの場合のケースを見ていきましょう。

事例2 昭和40年代に購入した別荘地であるが、その後地域の衰退により、殆ど山林化してしまった土地。固定資産税が年間1万円、管理料として年間2万円、敷地内の樹木の伐採に年間3万円が発生している状況。つまり、年間6万円のコストが発生している不動産

こんな土地を誰もプラスの価格で購入してくれません。購入者は、利用価値も無い不動産に年間6万円のコストを支払い続けなければなりません。

この場合、土地のみのため原価法の適用もできず、取引事例も無いため取引事例比較法の適用も困難です。消去法として残るのは収益還元法です。しかしながら、収益を生まない不動産のため収益還元法を直接的に適用するのにも困難が伴います。

ここでは、収益還元法に準じて、費用を肩代わりしてもらう価値を次の通り考えてみましょう。

当該土地は、年間6万円の費用が発生しています。これは出口のない半永久的な負担のため、収益還元法でいえば、永久還元方式を適用するのが妥当と言えましょう。

問題は、この費用を割り戻す「還元利回り」です。ここでは、とりあえず達観として、3%、4%、5%と刻んだ場合の価格を算定してみましょう。

6万円÷3%=200万円
6万円÷4%=150万円
6万円÷5%=120万円

プラスの収益を生む不動産については、都心の新築タワーマンションなどリスクが低いものは還元利回りが低く、大体3%前後での取引となる感覚でしょう。一方で、地方都市の築年数が相当経過したマンションなどはリスクが高く、大体5%~8%前後が還元利回りのボリュームゾーンとなりましょう。

ここでの還元利回りは収益‘(キャッシュフロー)の確実性が利回りに反映されると考えると、マイナス収益の費用については、ほぼ確実に固定資産税、管理料が発生し続けることになります。

という意味では、マイナス収益の不動産についてのキャッシュフローは、都心のタワーマンションのキャッシュフロー並みの確実性を持つことになります。

ただし、地方都市では、地価公示価格の下落などにつれて、今後、固定資産税の負担は減少していくことも見込まれるため、この影響を考えれば、やはり還元利回りは3%~5%程度に落ち着くのではというのが筆者の達観です。

上記で得られた価格を費用の何年分ということで見ていくと次の通りとなります。

6万円÷3%=200万円 → 費用の約33年分
6万円÷4%=150万円 → 費用の約25年分
6万円÷5%=120万円 → 費用の約20年分

多くの引き取り業者が不動産の引き取り料として、年間費用の20年分~30年分としていることとおおむね整合することになります。

以上は、目に見えるコストだけに着目した計算ですが、不動産には民法717条における土地の工作物責任のリスクを内包していることから、上記のランニングコストの〇年分という考え方以外に災害発生リスクなどを加味したものが引き取り料の相場を形成しているというのが現状です。

相続税の評価ではプラスになる

以上の通り、市場ベースで考えるとマイナス価値の不動産が存在するということが言えますが、相続税の算出の基礎となる財産価格の算定については、話が変わってきます。
相続税の財産価格は国税庁からは「時価」によって評価するとされていますが、実際のマーケットで成立する「時価」ではなく、あくまで「相続税課税上の時価」であることに注意が必要です。この「相続税課税上の時価」は財産評価基本通達という国の定めたルールに基づき査定されるため、マイナスになることはありません。
例えば、巨大な山林を相続しているケースで、マーケットの時価ベースではマイナス価値しかつかない山林が、相続税評価上は数百万と査定されてしまうケースは結構多いです。

時価はマイナスなのに、相続税だけはしっかりとられるというのが悲しい現実です。