空家等対策の推進に関する特別措置法の施行の背景

全国的に広がる空家問題は、所有者自身の問題というより、周辺地域のコミュニティに負の影響をもたらす地域の問題ともいえます。適切な管理が行われていない空き家は、防災上、衛生上、景観上、地域住民の生活環境に深刻な影響を与えるリスクが潜在しているため、これまで自治体の条例などで一定の空き家対策がなされていました。
しかし、日本においては私有財産の尊重をするという歴史的沿革もあり、私権への過度な介入を制限することは、行政としても踏み込めない状況が続き、空き家問題が放置される一因となっていました。

このような中、平成27年2月に「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家法)」が施行され、これまで行政権限では対応が困難であったリスクの高い空き家に対して、市町村長の権限で、一定の強制的な手法により除却ができることになりました。

空家法の考え方

空家法においては、「空家等」とは、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」と定義され、更に、以下のようなものを「特定空家等」に指定し、特定空家に該当する場合は、市町村により、除却、修繕、立木の伐採等の措置の助言、勧告、命令が行うことが可能となっています。

特定空家等の定義

類型1:そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
類型2:そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
類型3:適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
類型4:その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

特定空家等に該当した場合

特定空家等に該当すると市町村長が判断した場合、所有者に対して助言又は指導が行われ、助言又は指導を受けた場合にも関わらず特定空家等の状況が改善しない場合は、次のステップとして勧告を受けることになります。勧告を受けた場合においては、固定資産税の住宅用地の特例から除外されることになり、土地の固定資産税等の負担が最高で6倍に増加することになります。
そして、正当な理由がなくてその勧告に係る措置を取らなかった場合は、市町村長から命令を受けることになります。最終的に命令に従わない場合においては、市町村長は行政代執行による除却等の措置を行うことができるとされています。
代執行に要した一切の費用は義務者である所有者が負担することになり、費用の徴収については、国税滞納処分の例による強制徴収が認められることになります。

特定空家等に関する行政指導のフローは次の通りになります。

空家等対策特別措置法の改正の背景

空家法が施行された平成27年(2015年)以降、空き家を放置するリスク認識が所有者に浸透し、一定程度の老朽化した空き家が除却され一定の成果を見られました。
しかしながら、空き家となってから極端な状態である「特定空家」に至るまでの管理がなされていない空き家である「特定空家」予備軍が多くあり、特定空家となる前の予防的措置の必要性が自治体から多く寄せられました。
また、空き家等の所有者が不明の場合において行政が財産管理人を選任するにあたっての利害関係人に該当するか否かで考え方が不明確であり、所有者不明の空き家についての行政権限の限界が指摘されてきました。
これらの問題を解消する目的で、令和5年12月13日から空家等対策特別措置法の改正法が施行され、従来より行政権限の強化が図られるようになりました。

空家等対策特別措置法の改正のポイント

今回の改正のうち重要な3つのポイントを解説してみましょう。

ポイント1 管理不全空家の概念が導入された
ポイント2 市町村が財産管理制度の申立ての利害関係人となることが明記された
ポイント3 代執行の制度が広がった

改正ポイント1 管理不全空家の概念の導入

平成27年に施行された空家法では、「特定空家」の概念が導入されましたが、「特定空家」は相当に劣化が進んだ建物の終末的な状況を想定したものであり、これを未然に防ぐ必要性が指摘されてきました。
そこで、改正法では、特定空家に至る一歩手前の空き家について「管理不全空家」という概念を導入して、所有者に適切な管理や除却等を任意で進めさせることを促す制度を設けました。

特に、今回の大きなポイントとしては、管理不全空家に該当し、市町村長から助言又は指導が行われたにも関わらず改善が見込めない場合においては、固定資産税等の住宅用地の特例を適用除外とすることになったことでしょう。この措置によって、今後は、固定資産税等の住宅用地の特例措置が受けられない空き家が増加することになりそうです。
ただし、管理不全空家については、特定空家のような強制的な代執行手続きはなされないので、管理不全空家に指定された後において、相当に管理状態が悪化した場合に改めて、特定空家の指定を受けるという流れになります。

このように、従来の特定空家の制度と併せて、管理不全空家の考え方が導入されたことに伴い、改正法施行後は、次のような2段階のステップを踏むようになります。(ただし、管理不全空家の指定を飛ばして、特定空家に指定することも排除されていないことに注意)

ポイント2 市町村が財産管理制度の申立ての利害関係人となることが明記

管理不全空家や特定空家に該当したとしても、所有者が不明の場合、行政としては手の打ちようがなかったというのが従来の状況でした。そこで、所有者が不明の場合において、市町村が利害関係人として各種の財産管理制度に係る管理人の請求を行えるということが法に明記されました。
これにより、所有者の所在等が特定できない場合においても、行政としては特定空家に対して略式代執行の手続きにより、空き家の除却まで踏み込むことができるように明確化されたことになります。
なお、この財産管理人には、不在者管理人、相続財産清算人のみならず、民法改正によって新設された所有者不明土地建物管理人を含むことになり、行政の空き家対策による裁量度が増したと言えるでしょう。

ポイント3 代執行の制度の広がり

特定空家に該当した場合において、従来は、所有者が判明した場合における行政代執行、所有者が不明の場合における略式代執行の制度がありましたが、今回の法改正により、命令等の事前手続きを経るいとまがない場合における緊急時の代執行制度が創設されました。
また、所有者不明時における代執行、緊急代執行の費用は、確定判決を経ることなく強制徴収が可能であることが明記されるなど、所有者の逃げ得を許さない法制度に改正されていることにも注意が必要です。

その他、今回の空家法の改正では、空家等活用促進区域制度の新設や、支援法人制度が導入されるなど、空き家問題に対して、官民一体として空き家問題の解消に向けた動きを促進する制度が設けられています。

以上のように見ると、管理が不行き届きな空き家を所有することによる所有者責任はますます重くなっているのが現状です。