負動産の解決は一筋縄ではいかない

一口に負動産といっても、土地のみなのか? 建物付きなのか?のように類型によっても異なり、過去に投資用で購入したのか?自宅などの自己居住用で購入したのか?相続によって取得したのか?といった取得原因によっても様々です。更に、人口が集積する都市圏に存するか?地方の人口の著しい中山間エリアに存するか?などエリアのマーケット状況によっても異なります。加えて、不動産自体の接道状況や管理状況によっても価値水準が異なり、不動産価値を判定するには、様々な視点からの検討が必要となります。

ここでは、利活用の困難な価値が著しく低い不動産を如何に処分していくかという視点に絞って、その手法を考えてみましょう。

負動産の解決方法

不動産仲介による解決

一般的な不動産の売却については、地元不動産仲介業者などに売却依頼して買い手を探索してもらう活動が思い浮かびます。仲介会社は、宅地建物取引業者であるため、宅地建物取引業法に定める報酬額の制限を受けます。報酬額表のテーブルは次の通りになっています。

200万円以下の金額 5.5%(消費税込)
200万円を超え400万円以下の金額 4.4%(消費税込)
400万円を超える金額 3.3%(消費税込)

低廉な空家については特例があり、18万円(消費税別)までは報酬として受領できることになっています。この18万円には、報酬額と調査費用を含むものであり、この金額で果たして媒介を受けるインセンティブを持つ宅建業者は殆どいないのが現状です。
ましてや、マイナス価値となった負動産の媒介については、断られるケースが殆どだと思います。幸運にも、仲介業者が媒介を受けてくれたとしても、自社サイトに掲載するだけでそのまま放置されるといった相談事例が多くあります。
これまでのご相談の事例では、10年程度、地域の不動産仲介会社に媒介の依頼をしていたが一件も問い合わせすらなかったという事例も多数あります。

このように、不動産仲介による解決は、一定程度のマーケット価値が見いだせる不動産でなければ現実的でないものと考えられます。

隣接地等への売却

不動産を最も高く購入できる可能性があるのは、隣地となります。隣地の方にとって、敷地規模が増大することにより、土地の有効利用度が向上したり、建物を建築する場合においても建物の配棟の自由度が向上したりとメリットが多いものです。まずは、隣地の方にお持ちの不動産の売却を打診してみるのが不要な不動産を売却する場合のファーストステップと言えます。

ただし、人口減少が著しいエリアにおける宅地や雑種地においては、隣接地の所有者自体も無償でも所有不動産を手放したいというケースも多く、隣接地に打診しても話が進まないといったケースも多いです。
また、不動産登記上の所有者の住所が変更されているものの、住所変更登記がなされていない不動産や、相続が発生しているにも関わらず相続登記が未了になっている不動産が、特に地方都市では多く見られ、隣接地の方に連絡することすらままならないといったケースも多くみられますので、簡単には解決しない可能性もあることに留意が必要です。

自治体への寄付

ご相談者からよくある質問として、「不要な土地なので、無償で自治体に寄付をすればいいのではないか?」と聞かれることがあります。結論から言えば、自治体は例外的なケースに該当しない限り、寄付を受け付けません。自治体も財政難を抱えており、不要な土地や建物を無償で引き受けた後においては、管理コストが発生するため積極的に寄付を受け付けないのが一般的です。また、固定資産税の収入が無くなることも自治体が寄付を受けたがらない要因として挙げられます。
例外的なケースとしては、都市計画法に基づき対象不動産が都市計画道路の事業地内にあるなどの特殊な条件がある場合に限定され、このような土地は殆ど存在しないというのが現実です。

マッチングサイトの活用

昨今は、空き家問題解消のために遊休不動産の売り手と買い手のマッチングを行う「空き家バンク」を運営している自治体が増えてきております。昨今は、地方移住を検討している人が、空き家バンクサイトを検索して、安く不動産を手に入れたという事例が多くなりました。また、最近では、民間のマッチングサービスも多く提供されているので、これらを活用してみるのも一手です。ただし、マッチングサイトによるマッチングは、有効に利用できる土地建物であっても金額をゼロ円程度にまで引き下げないとなかなか成約せず、時間を浪費する可能性もあることに注意が必要です。長期戦を覚悟できる方であれば、空き家バンクの活用はおすすめです。

このようなマッチングサイトを活用した売買においての注意点としては、売却後の契約不適合責任を売主と買い主でどのように分配するかがポイントとなります。特に、空き家状態が長く続いた不動産については、老朽化の程度が激しく、購入者から後に思っていたものと違ったなどと代金を減額されたり、修繕や損害賠償請求がされたりするケースもあるので、契約書における責任の明確化が重要となります。

相続土地国庫帰属制度の利用

令和5年4月27日から施行された相続土地国庫帰属制度。この制度は、相続にて取得した土地の所有権又は持分を国に引き取ってもらえるという制度です。

制度については、細かい要件がありますが、概略と特徴をまとめると次の通りです。

対象者 相続又は相続人に対する遺贈にて土地の所有権を取得した所有権者(持分も可)
対象不動産 土地のみ可。(建物付きはNG)
地目  限定なし。(農地でも利用可)
負担金 最低20万円。原則として国が管理を要する費用として算定した10年分の負担金

相続土地国庫帰属制度の利用が進まない背景として、不承認要件が厳しすぎるという点が挙げられます。
不承認要件を列挙すると次のようになります。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

以上の不承認要件を全てクリアできる土地であれば、通常の不動産マーケットで売却可能なのではないか?という声が多く聞かれます。
ただ、相続土地国庫帰属制度については、農地も対象となるので、民間の売買で対応な困難な農地については利用を検討する余地が十分にある制度だと考えます。

引き取り事業者による引き取り

マーケット価値の認識できない不要な不動産、いわゆる「負動産」の処分の最終手段としては、民間の引き取り事業者による引き取りサービスを利用する手があります。一般的に引き取り料は、相続土地国庫帰属制度を利用するより若干高めでありますが、迅速な処分が可能ということで検討をする方が増えております。一般的な民間の引き取り事業者の引き取り契約は次の通りとなります。

・公簿売買が主流であり、境界の明示も不要とするケースが殆ど。
・契約不適合責任を免責するケースが多い。(ただし不明確な契約も散見される)
・引き取り料は、固定資産税や管理料の20年~30年分として、その他の災害リスクなどのリスクを加算するなど、引き取り料金の考え方は事業者によってかなりブレがある。
・その他、抵当権などの担保権が抹消できない物件についても引き取りが可となるケースもある。

民間の引き取り事業者による引き取りにはいくつか注意点があります。トラブルにならないように事前に契約書の内容をしっかり確認しておく必要があります。

民間引き取り事業者による引き取りの注意点1

法外な測量費などを請求されるケースがある。
隣接地との境界が不明確な土地であっても基本的には引き取りの対象となることが多いですが、引き取り業者によっては、引き取り料を低額に抑えつつ、測量費などを過度に請求する事業者も多いので、この点総コストを事前に確認しておく必要があります。

民間引き取り事業者による引き取りの注意点2

契約不適合責任の条項が曖昧となるケースがある
無事に引き取りが完了し、所有権が引き取り事業者に移転した後においても、契約書上において契約不適合責任の条項を曖昧に対応しておくと所有権移転後にトラブルになるケースが考えられます。例えば、がけ崩れなどが生じて引き取り事業者に損害が発生するケースもあり得ます。この損害の発生原因が、売主の所有時代の管理不行き届きによる地盤の軟化が原因だったとして、契約不適合責任により、損害賠償請求を売主が負担するという可能性があり得ます。

民間引き取り事業者による引き取りの注意点3

外国人などに転売されてしまうケースがある。
引き取り事業者は、所有権の取得後においては一般的には長期の保有を通じて当該引き取り不動産を管理していきます。マーケット価値の観念できない不動産といえども、引き取り事業者は空き家の場合はリフォームをしたり、土地の場合であると整地を行うことによって、付加価値を高め転売を目指します。
しかしながら、引き取り事業者の中には、不動産を有償で引き取り後に、即転売をして利益を確定する事業者も見受けられます。このような即転売先として、単に日本の土地を取得したいという外国人などが含まれるケースもあるので注意が必要です。

以上、民間の引き取り事業者による引き取りは、迅速な解決が可能である一方で、いくつかの注意点があります。この注意点をしっかり認識できれば、最終手段としては、現実的な解決方法であると考えます

ただし、農地については、農地法の制限により民間の引き取り事業者では引き取りが困難なケースが多く利用が難しいものと考えます。一方で、農地から他の地目への転用許可が下りる可能性のある土地については、利用が可能なので検討の余地があるものと考えます。

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