負動産の代表的な類型

不動産の類型としては、(1)土地のみの場合、(2)土地上に建物等の工作物が存する土地建物等の2つに大別されます。
ここでは、マーケット価値、つまり時価としてプラスの価格を認識しにくい負動産という観点で、この2つの類型に分類して典型的な負動産の特徴を見ていきましょう。

(1)土地のみの場合

相続等にて先祖から代々引き継がれた山林や原野を所有している方は意外に多く、現地に行ったこともないような土地を実は父母が持っていたということが相続が発生して初めて認識されるケースも多いです。

また、昭和の高度経済成長時代、特に昭和40年代、50年代において全国的に広がった土地の投資ブームにより、原野の一角地を分譲して販売するといった、いわゆる「原野商法」にて山林や原野を所有している高齢者の方も多くみられます

これらの土地は利用価値が皆無ながらも所有権を放棄できないことから、代々相続で引き継がれざるを得ない状況で困っている子供世代の方からのご相談も非常に多いです。

ただし、原野商法の土地は100坪程度の原野地が殆どのため、固定資産税の負担は無く、隣接地も原野地であることから、管理の負担が発生しないこと、土砂災害等が発生した場合における損害賠償リスクも比較的低いものと考えられます。

一方で、中には、数万㎡の山林や原野を所有している富裕層の方もおられます。このような巨大山林については、固定資産税の負担や土砂災害リスクなどを考えると総じて高いリスクを内包していると考えられます。

昭和40年代、昭和50年代の高度経済成長期に、土地はそれ自体で資産価値となり決して下がることはないという価値観「土地神話」が生まれました。都心の不動産が高騰してしまった庶民が、こぞって地方の分譲別荘地を購入するという姿が日常化した時代です。当時は、地方の別荘地を購入するのに都心からバスツアーなどが分譲事業者により企画され、相当な倍率による抽選による購入といった、今の時代感覚からすれば信じられない状況でした。

もともとはこれらの購入者は将来、別荘地に建物を建設して週末など余暇を楽しむという目的で購入した人も多くおられましたが、その後のバブル崩壊で、建物を建てることなく放置され、土地のみが残ってしまった別荘地が多く残されています。

現在のところ、これらの別荘地で流通しているのは、建物の保全管理がしっかりしている建物付きの別荘です。よほどブランド力のある別荘地でない限り、これらの別荘地の流通価格は数十万円~100万円未満というのがボリュームゾーンです。つまり、別荘を数十万円で購入できるのに、わざわざ土地から購入して、樹木の伐採を行い、再度整地をして、建物を新築するというニーズは殆ど無いという状況なのです。

このような別荘地の問題点は、固定資産税の負担に加え、別荘地を管理している管理会社からの管理料の請求があることが一般的であり、また、敷地内の樹木の選定費用や草刈り費が別途かかったりするケースが多く、所有しているだけでランニングコストが嵩むことになります、更に、ご丁寧にも温泉供給が受けられるという謳い文句で分譲された別荘地も多く、温泉利用権の更新料や負担金が追加で発生しているケースも多くみられます。

農地の処分については、農地法の制限を受けるという難点があります。そもそも農地法では、農地を農地以外のものに転用したり、農地を自由に売買すること自体に制限を設けているため、第三者間の売買について、他の類型の土地と異なり極めてハードルが高い土地となります。

転用や売買を行うにあたっては、以下のような農地法3条、4条、5条の許可を農業委員会から得なければならないという厳しいルールが敷かれています。
(以下、農地の転用、売却に的を絞って整理します。)

農地法3条の許可
農地を農地のまま第三者(※)に売却する場合の許可が必要。
※当該第三者は基本的に農家でなければならない。

農地法4条の許可
農地を農地以外に転用する場合に許可が必要

農地法5条の許可
上記の転用及び売却の合わせ技の場合、許可が必要。
例えば、農地を雑種地に転用と同時に売却する場合

この農地法の制限により、次のような方が農地を処分するのに苦労している状況です。

もともとは実家が農家の家系であった。
しかし、子供世代は現在は農業を営んでいない。
農地を相続で受けた。

ここで注意しなければならないのは、「農地は相続することができる(むしろしなければならない)が、簡単に売却できない」ということです。

私はこれを農地の呪縛と呼んでおり、農地の処分については、解決策が限られるというのが現状です。

土地所有のリスクで最も高いリスクは災害発生時における所有者責任リスクです。
民法717条には土地の工作物責任という考え方があり、所有地に起因する損害については最終的には所有者が負わなければならないという建付けになっています。

特に、急傾斜の斜面地を所有しており、付近に民家が存在している場合において、地盤の軟化によって発生する土砂災害は近年報道でも大きく取り上げられています。土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)および土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)の指定がなされた区域に存する山林地は高リスクの不動産と言えます。

このような土地は、固定資産税のランニングコストがあまり発生しないので放置されがちですが、万が一土砂災害が発生して周辺の民家に損害を生じさせた場合の民事上の損害賠償責任を無過失で負わなければならないという厳しいものとなっています。

また、これらの責任については、個人所有者の場合、無限責任を負わなければならず、災害が生じた場合は一気に破産というケースも可能性はゼロでないので、要注意です。

(2)土地建物等の場合

全国的に急増する空き家。法務省が行った住宅・土地統計調査によれば、空き家の総数はこの20年間で約1.5倍(576万戸→849万戸)に増加しており、中でも「使用目的のないその他空き家」(以下、「その他空き家」という)については、この20年間で約1.9倍(182万戸→349万戸)に急増している状況です。

また、国土交通省が実施した「令和元年空き家所有者実態調査」によれば、次のようなデータとなっています。

・建て方の89.6%が一戸建て(その他空き家は91.1%)
・昭和55年以前建築が69.1%(その他空き家は77.5%)
・取得方法の54.6%が相続(その他空き家は58.7%)

このように典型的な空き家は、「相続によって発生した昭和55年以前の建築による一戸建ての空き家」ということになります。

都心部の空き家については、コストをかけて空き家を解体したとしても、土地の価格が解体費を大幅に上回るため大きな問題とはならない一方で、人口減少の著しい地方では、解体費が土地価格を上回るため、そもそも建物を解体するインセンティブが働かず、負動産と化してしまうという空き家が多くみられます。

空き家問題については、令和5年に空き家特別措置法が改正され、固定資産税の減免措置が受けられなくなる空き家や、腐食が進んだ空き家についてはより簡易な手続きで強制的除却(行政代執行)がなされる空き家が今後増えていくものと考えられます。

一戸建ての建物については、空き家法による厳しい措置が今後見込まれますが、マンション(区分所有建物)も負動産化するケースがあります。

今や都心のマンションは、バブル期を超えるような取引価格が成立するなど、低金利環境の後押しや相続対策によるタワーマンション購入など需要が一層活性化している状況です。

一方で、都心部においても築年数が相応に経過したバス便の公団タイプのマンションなどは、マンション一棟が限界集落化しているケースも散見されます。
これらのマンションは、住民の高齢化が進み、相続が発生し空き家となってしまったもの、管理費・修繕積立金の滞納による管理不全化が進行しているものも多い印象です。

マンションの場合に重くのしかかるのが、固定資産税の負担に加えて、管理費・修繕積立金のランニングコスト。これらは土地価格に関係なく、建物を維持管理していくのに必要なコストのため、地方都市郊外の築年数が経過したマンションについては、今後、負動産化が進むものも増加していくものと考えます。

また、昭和50年代以降に多く建設された地方のリゾートマンションにおいては、管理費・修繕積立金などの負担が一般の都市型マンションと比較すると過大なケースも多く、更なる負動産化が進むものと見込まれます。

空き家として放置された不動産の中でも、所有者による家財道具などの動産が残置され、これを処分や撤去するだけでも多額の費用が発生します。
中でも、昨今は、近隣コミュニティに迷惑をかけ続けるゴミ屋敷が社会問題化しています。

ゴミ屋敷となってしまうことにより、悪臭、火災、防犯上のリスクが一気に高まることになり、これまで近隣住民からのクレームをなだめながらやり過ごしてきたという行政も多くみられるのではないでしょうか。
相続当初は、単なる空き家であったが、不法投棄などによりゴミ屋敷化するケースもありえます。

ここにきて、このような外部不経済を放置してはならぬということで、空き家対策特別措置法が施行、改正され、これまで以上にゴミ屋敷化した空き家に対しては、行政代執行による強制的な除却がより簡易な手続きで行える法改正がなされてきました。

市町村による行政代執行が行われた場合、代執行費用は所有者に請求されることになり、しかも、この請求は国税滞納処分の例による強制徴収が認められています。
例えば、親の残した実家がゴミ屋敷化しており、行政による勧告・命令に従わず、行政代執行がなされた場合においては現在の所有者である相続人がこれらの行政代執行に要した費用を負担することになり、場合によっては、現金や自宅の差し押さえがなされることになります。

それでは、ゴミ屋敷を解体除去して、ゴミを処分することを代執行によってなされた場合、どの程度のコストが発生するかが問題となります。

一例として、東京都板橋区において平成29年において行政代執行の対象とされたゴミ屋敷の例(注)を挙げてみます。

行政代執行費用による債権の合計額
①緊急安全対策工事 295,336円
②行政代執行 20,666,800円
③合計 20,962,136円

注)出典:板橋区都市整備部建築指導課編「所有者不明空き家の行政代執行」より

上記の事例は、ゴミが建物に満杯に詰まったような特殊なケースであり、残置物処分だけで1,000万円を超えるような極端な事例ですが、ゴミ屋敷化することによるリスクの参考になるものと考えます。