負動産問題の背景
不動産は、土地と建物に分類され、それぞれが所有者の居住の用や商売のための用に供されたりと利用用途は様々です。
人が居住し、働き、休息をとる場として不動産は欠かせない貴重な財産です。
令和2年時点において、日本の国土面積の総計は約3,780万haとされますが、そのうち、森林が約2,503万ha(66.2%)と最も多く、次いで農地が約437万ha(11.6%)となっており、森林と農地のみで、全国土面積の約8割を占めています。
一方で、住宅地は約120万haと全国土面積の3.2%に過ぎません。
戦後の急激な人口増加により、このように希少性が高く利用価値のある住宅用の土地を競い合って取得する土地投資ブームが隆盛を極め、土地は絶対に下がらないという「土地神話」が生まれました。
昭和40年代~昭和50年代においては、土地が投機の対象となり、利用価値の見いだせない多くの土地が投機の対象となり、バブル経済の発生に至ります。
そして、バブル崩壊。土地の価格は全国的に見て下落の長期トレンドを描くようになっています。
足元では、超低金利の影響もあり都市部においては、土地価格の上昇が著しいエリアが多く出現している状況ですが、人口減少の著しいエリアにおいては、土地価格が依然として長期下落トレンドとなっています。
一方で、日本の人口を見てみると、総人口は2004年の1億2784万人をピークに減少社会に突入しており、今後50年で人口の約25%が減少し、2050年には約9500万人まで人口が減少することが予測されています。
地価の長期トレンドと人口トレンドは、相関性が非常に高いと言われています。実際に、全国の住宅地の地価公示価格の変動率と人口の増減率をプロットすると次のようになります。
データ出典:国土交通省「地価公示」、総務省統計局「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」を加工したもの。
このように、人口データと地価変動データには恐ろしいほどの近似性があり、今後の急激な人口減少社会を迎える日本の土地問題については、地価下落の圧力がかかり続けることになります。
負動産とは?
本サイトにおける「負動産」の定義としては、利用価値が低いにも関わらず、固定資産税や管理の負担などマイナスの負担が重い不動産とします。
負動産の形態としては、大きく、(1)土地のみの場合と(2)土地建物の2パターンに分けられます。この2つのカテゴリーの典型例は次のようになります。
(1)土地のみの場合
・利用価値の低い山林、原野、農地
・人口減少著しいエリアの宅地
・固定資産税等の負担の重い別荘地
・不法投棄や土壌汚染のある土地
・無道路地
・所在者不明の共有持分者がいる土地
(2)土地及び建物の場合
・人口減少が著しいエリアに存する空き家
・倒壊などの危険性がある建物
・ゴミ屋敷
・心理的瑕疵のある事故物件
これらの不動産は、所有すること自体がリスクであるにも関わらず、長年放置状態が続き、時間の経過とともに解決がますます困難となっていくという状況にあります。これらの不動産には、固定資産税や管理料などの見える負担以外にも、不動産所有そのものに関連する潜在的な所有リスクを内在しています。
突然、土砂災害や樹木の越境により隣接地から損害賠償請求を受けたり、行政代執行による強制的解体をされたりといった将来における見えざるリスクが潜在しています。
負動産所有のリスク
そもそも不動産の所有には民法上、所有者による管理責任が課されています。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
このように、土地及び建物から生じた損害賠償責任は、最終的には所有者が負わなければならず、この責任は無過失責任だと言われています。つまり、他人に対して損害が発生した場合、所有者は、土地や土地の工作物の管理をしっかり行っていたと主張することができないという恐ろしい規定なのです。
例えば、土砂災害が発生した場合、占有者がいないケースが殆どだと考えられますので、最終的には、所有者が損害賠償責任を負うことになります。また、他人に賃貸をしている家屋であっても、賃借人がきちんと管理をしていたと立証することができれば、当該賃借人は免責されるものの、所有者は免責されないことになります。
このように、不動産は、所有すること自体に潜在的なリスクを内在しています。
特に、管理不全となった住宅地に近い傾斜地や、地方の老朽化した空き家などは高リスクの不動産と言え、負動産化しているものも多くみられます。
不動産の放棄ができるか?
結論から言えば、不動産の所有権を放棄することはできません。
我が国の法律では、次の例外を除いて不動産の放棄を認めた制度がなく、相続が発生した場合においては、相続人が被相続人の所有していた不動産の所有権を承継する義務が生じます。
不動産の所有権放棄の例外
例外1 相続放棄をする
相続放棄とは、被相続人の所有した財産及び債務を全て放棄する制度であり、相続放棄をすると相続人でなかったことになります。すべての財産の放棄制度なので、不要な不動産だけを放棄するという都合のいいことはできません。また、限定承認という制度がありますが、限定承認は積極財産(つまりプラス価値の財産)を消極財産(つまり借金)の範囲までに限定して相続するという制度であり、この積極財産の中にも不要な不動産が入り込むことから、特定財産の放棄には利用できない制度なので注意が必要です。
例外2 相続土地国庫帰属制度を使う
令和5年4月27日から施行となった相続土地国庫帰属制度により、土地を国に帰属させる制度が始まりました。この制度の対象は「相続で受けた土地」に限定され、建物付きは対象外となります。そもそも相続土地国庫帰属制度は、審査要件が厳しく利用は限定的にならざるを得ません。運よく、国が引き取りを決定した場合においても負担金が発生することや、弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士などの専門家報酬の発生を考えると二の足を踏む人も多いものと考えます。
※厳密に言えば、相続土地国庫帰属制度は所有権の放棄制度とは異なります。
ご相談者様の中には、自治体に無償で寄付をすればいいのではないか?とお考えの方も多くみられますが、自治体が寄付を受けることに同意することは殆ど無いと考えて下さい。
このようにマイナス価値の不動産だけを任意に放棄する制度が存在しないため、負動産の所有の呪縛から逃れることができない人が処分に苦慮しているというのが現状です。