リスクの高い不動産
不動産所有者には、民法717条に規定する土地の工作物責任が課されており、土地又は土地上の建物などの工作物から他人に損害を生じさせた場合には、無過失責任を負うことになります。
また、利用価値の低い不動産であっても固定資産税の負担に加え、維持管理のためのコストが発生し、コストだけが発生する負動産と化してしまうようなケースがあります。
このようなマイナス価値の不動産であっても単体不動産の所有権の放棄が認められていないため、相続が発生した場合、相続財産に算入され、相続人どうしの押し付け合いになりかねません。更に、時価ではマイナス価値の不動産であっても固定資産税評価額が付されていることから、相続税の相続財産の価格の算定にあたってはプラスの財産として相続税の課税対象不動産とされます。
このような観点でリスクの高い不動産の例を挙げてみましょう。
リスクの高い土地
例1:急傾斜地の山林
斜面地の下に住宅が広がる急傾斜地の山林は特に損害賠償リスクが高い不動産と言えます。また、道路に面している山林地についても、樹木が道路に倒れこむリスクがあり、樹木の伐採など行政から一定の指導・勧告を受けることも考えられます。
特に、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)および土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)の指定がなされた区域に存する山林地は高リスクの不動産と言えます。
むしろ、急傾斜地の山林であっても、周辺エリアも山林である原野地のほうが、リスクが低い傾向にあります。
例2:固定資産税・管理料の負担の重い別荘地
昭和40年代~50年代の高度経済成長期には、全国レベルで別荘地の分譲が盛んになりました。当時、これらの別荘地は、建物を建てて別荘として利用するといった購入者より、むしろ投資対象として購入した方が多くみられます。当時、30代~40代にてこれらの別荘地を購入した方々も、現在は70代~80代になっており、更地のまま放置され、固定資産税や管理コストを支払い続けている人が多いです。これらの別荘地の中にはエリア一体を管理する管理事業者による管理がなされているケースも多くみられ、固定資産税の負担に加え、多額の管理料が請求されている場合があります。
例3:共有持ち分が分散化した土地
数次による相続が発生し、所有持分が分散化してしまい、共有者全員の意思統一が図れず売るに売れないといったケースが多くみられます。更に、相続登記が未了のため、一体誰が持分権者であるかの把握すら難しい不動産、いわゆる所有者不明土地となっているケースが多くみられます。都心部の土地であれば、相続人探索や裁判上による共有物分割手続きなど、コストをかけてでも行うインセンティブが働きますが、地方エリアの価値の低い不動産については、これらの問題が放置され続け、固定資産税や管理費を垂れ流すというケースも多くみられます。
リスクの高い建物
例1:人口減少エリアに存する空き家
建物が負動産化する最も多いケースが、相続による実家の処分問題と言えます。地方都市で居住する父母、都市部で生活する子供たちという典型的な構図です。子供世代は、都市部で就労しており、子供の子供(つまり父母の孫)たちは都市部の学校に通学しているなど、都市部において生活の基盤が確立してしまっています。このようなケースで父母の相続により、実家が空き家になってしまい、管理不全の状態が続き、ひいては負動産と化してしまいます。都市部においては、建物を解体して更地化しても買い手がつくため、空き家問題化しにくい傾向がありますが、人口減少エリアに存する空き家は建物自体の利活用の方策がそもそも見いだせず、建物を解体しても土地の買い手がいないという八方ふさがりの状態となっている空き家が増え続けています。
例2:倒壊の恐れのある空き家
老朽化し管理不全となった家屋は、雨漏りの発生により躯体の腐食が進み、倒壊の危険にさらされることになります。これらの建物については、行政による略式代執行や行政代執行による強制的な取り壊しがなされるケースもあり、取り壊し費用は所有者の負担となります。また、ブロック塀などの外構の老朽化して、倒壊して隣地のみならず通行人に人損被害を与えてしまう空き家も多くなっています。
例3:ゴミ屋敷化した空き家
土地建物の価値が見いだせる不動産であったとしても、元の所有者による家財道具などの動産が残置され、処分に困るケースがあります。更に、これらの一般の家財道具に加え、ゴミが散乱するいわゆる「ゴミ屋敷」化した不動産は、追加の処分コストが発生し、これらの処分コストが土地建物の価値を上回り、負動産化してしまうといったケースもあります。また、ゴミ屋敷は火災発生リスクや害虫発生リスクなどによる損害賠償責任も内包するなどマイナス化が進んだものも多くみられます。
このように見ると、建物のリスクとしては、空き家問題に換言することができます。令和5年には、空き家対策特別措置法が改正され、政府の方針としても空き家のまま放置することを許さないという姿勢が明確になっています。